
第5章 在来学部における行政学・政策科学教育の進展
1. 在来学部における改革の概要
今から20年ほど前に、井出嘉憲東京大学社会科学研究所教授、西尾勝東京大学法学部教授および村松岐夫京都大学法学部教授の3人を参加者として「行政学を考える」という座談会が行われたことがある(『自治研究』第53巻第2号、1977年)。この同時期に全5巻の『行政学講座』(東京大学出版会、1976年)が完結しており、戦後発展した日本の行政学の到達水準がしめされた頃でもあった。座談会の内容は多岐にわたるが、西尾教授の発言の中に、当時行政学者を自称している人は30人程度しかいないということ、またそれらの研究者の関心に偏りがあり日本研究者が少ないという指摘があった。
それから20年、座談会出席者のつぎの世代の研究者を中心に行政学者は大幅に増加し、日本研究者も多数登場してきた。この間における行政学界の発展をしめしているのが全6巻におよぶ『講座行政学』(有斐閣、1994〜95年)の刊行といえよう、このような学界にとって歓迎すべき状況を生み出した背景の1つに、法学部の増加(および政治学科の増加)と既存法学部のカリキュラム改訂等による行政学担当者の需要の増加ということがあろう。そして、研究者の増加は講義科目の多様化の要因となる。主要大学では、「行政学」以外に「地方自治論」「行政管理論」「公共政策」等の科目を配置していることがめずらしくない。
さて、ここまでの記述は法学部あるいは政治経済学部といった「在来学部」に限定したものであるが、第3章および第4章における分析で明らかなように、1990年代にはいると政策系の新学部が東西において相次いで設置される。慶応義塾大学総合政策学都、中央大学総合政策学部、立命館大学政策科学部等がそれである。これらの新学部の隆盛は当然のことながら在来学部に影響をおよぼすと推定される。しかしながら、上述のような講義科目の多様化等にみられる行政学教育の進展を主として新学部ブームに触発された外在的要因にもとめるべきなのか、あるいは在来学部が独自に社会的要請を認知して改革を行うという内在的要因にもとめるべきなのかはいまひとつ判然としない。
本章では、このような疑問はひとまず措き、法学部、政治経済学部等の「在来学部」のなかで、90年代にどのような改革が行われたのかについて、とくに行政学、政策科学およ
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